「年代記」として読むか「入門書」として読むか。(評価: )
本書はハロプロ帝國の興隆・凋落と新興勢力Perfumeの勃興という「物語」の読み物として語られることになりそうですが、あくまでそれは本書を構成する要素の一部。毎月の定点観測的なレビューをまとめた体裁をとっているので、後から俯瞰してみると結果的に「物語」が浮かび上がってくるという仕組みです。
本書の特色は著者の豊富な音楽的知識・素養に裏打ちされた分析でしょう。もっともそれは対象を突き放した「訳知り顔」の客観的な分析に終始する訳ではありません。著者の個人的な「好き嫌い」(妥当な線とは思うが、モー娘で言えば全盛期以降のシングルは所謂「フロア映え」しそうな「笑顔YESヌード」を例外的に激賞する以外は総じて低評価かそもそもの関心が低い。クラブが根城の人ですから)や殆ど妄想に近いヲタ的な思い入れによる主観的な印象批評の要素も多分にあります。主な評価軸は身体的な心地良さですが、それを得られなくても頭で考えたような音楽(ex.THEマンパワー)は評価する傾向もあります。
前書きにその旨のエクスキューズはありますが、アイドル然としたノベルティソング(ex.女子かしまし物語)や恋愛・人生賛歌系(ex.歩いてる、みかん)、またジャンルでいえばロック系・バラード系を嗜好する人には違和感が残るかもしれません。また歌詞の面では、つんく氏が好む日本的な「演歌的女性観」=「時に強がりながらも一途に意中の男を想い待つ女」(要するに男に都合のいい女)には感心していないようで、このモチーフが強い曲は評価が厳しくなりがちです(ex.ごまっとうの「Shall We Love?」)。
この種のアイドル歌謡批評は音楽的な分析が過ぎると、著者の言葉を借りれば「魅力が実力に優越する」という「アイドル性」を無視したものとなり、音楽的知識・素養を欠くと「アイドル歌謡」論ではなくカルスタ的な「アイドル」論、或いはグループ内部の人間関係や芸能業界事情を暴露するゴシップ誌的なアプローチに陥る傾向があると思います。そもそも音楽的分析とゴシップ誌的アプローチは、それぞれに興味を示す主体が分断されていて(平たくいえば音楽通を自認する人間はアイドル歌謡を黙殺しアイドル好きは音楽性なんぞ興味ないということ)相性が悪いと思うのですが、その点、本書はともすれば相反する二つの要素を適度に保持しており、ある種の奇形さが魅力となっています(曲によってはアイドル論に振れ過ぎの部分もありますが)。
元ネタも豊富に例示されており、アイドル歌謡をとっかかりに各ジャンルやオーセンティックな定盤を「掘る」際の座右の書としても使えそうです。
もっともこうした「入門書」としての需要が果たして今の時代どれくらいあるのか疑問でもあります。既にあるジャンルやアーティストを「掘る」という振る舞いが前時代的なものなのかもしれません。
「年代記」としては面白く「入門書」としても有用です。
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