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本(和書) > 巨怪伝〈下〉―正力松太郎と影武者たちの一世紀 (文春文庫) のレビュー・価格情報

巨怪伝〈下〉―正力松太郎と影武者たちの一世紀 (文春文庫)

巨怪伝〈下〉―正力松太郎と影武者たちの一世紀 (文春文庫)

文庫
佐野 眞一
文藝春秋
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「巨怪伝〈下〉―正力松太郎と影武者たちの一世紀 (文春文庫)」購入者のレビュー・評価

  怒涛のような傑作(続)(評価:評価:5
(文庫本上巻レビューより続く)
 正力がこの大衆というモンスターを乗りこなし得た秘密を、著者はその「没理想」「没理念」に見る(上p239、p319)。もちろん、これは大衆の定義でもある。正力は大衆そのものではないにしろ、「刹那的な欲望の水路に大衆を導き込む運河の設計者」(上p191)として、大衆と一体だった。
 正力は周囲に多くの有能な「影武者」たちを従え、彼らの夢や理想を喰らって輝いた。そこには「夢をもった者はその夢を実現できず、夢をもたなかった者だけが、他人の夢を横どりできる、という苦い構図」(上p409)がある。ただし「その実現されたその夢は、いつも形骸化された夢、夢の抜け殻ともいうべきものだった」(上p345)。
 著者は本作の発表後、渡邉恒雄伝の執筆を勧められて腹を立てたという噂を耳にした。それはそうだろう。この著者の関心は、まっすぐに「日本近代の肖像を描くこと」に向かっている。対して、著者が渡邉の矮小さを軽蔑していることは、本書中の記述からも明らかではないか。著者が次のテーマに選んだのは、大衆化する日本社会の中で「真の庶民の姿」を捜し求めることに生涯をかけ、時には捏造に手を貸しさえした宮本常一だった。そこに著者の求める「解」があったかどうか、それは疑わしいと私は考えるけれども…
この評価・レビューへの支持:投票総数 1件中 1票の支持
 
  善悪・イデオロギーを超越した怪人、正力松太郎(評価:評価:5
質・量ともに著者の代表作である。執念の作品といってもいいかもしれない。丹念で綿密な取材が持ち味の著者だが、それにしても巻末に掲載されている取材協力者、参考文献、登場人物一覧は膨大である。総理大臣もいればお笑い芸人もいる。戦後の著名人は殆ど登場している、といっていい程である。

彼は確かに欲望のままに動いたのかもしれない。彼は倒産寸前の読売新聞に乗り込み、大衆の心をつかむ革新的な紙面を作り出し、その後もテレビ、プロ野球、プロゴルフ、プロレスetcと彼は戦後日本で発展した興行の殆どに「父」として君臨している。「大衆の夢と欲望を食い尽くした男」というくだりがあったが、まさにその通りである。

しかし、実際に彼のアイデイアを実現してきたのは、この作品では“影武者”と呼ばれる男達である。ところが、正力により彼らの功績は切り捨てられた。それでも、彼の周りには人が集まってくる。この人脈の広がりは尋常ではない。善悪やイデオロギーを超越したまさに大きな怪人「巨怪」である。

そんな正力は、衆議院選挙に出るにあたって「総理大臣になるのが夢だった」と漏らしているのだが、これも彼の単なる欲望の一つなのだろうか、それとも、原子力発電も含めて、それまで彼が実現してきたことは総理になるための布石だったのであろうか…。

著者の作品は殆どそうであるが、彼は、この作品でも正力のバイタリティーの源泉を故郷富山風景に見ていたりする。相変わらず思い込みが激しいなぁとは思うが、これは佐野眞一が書いた「評伝」である。粘っこい文章と合わせて個性なのである。好き嫌いが分かれる作家だとは思うが、私は好きである。ただし、東電OL殺人事件など事件を扱った作品では、この個性は魅力ではなく欠点になるので好きになれない。

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  恐るべき正力松太郎(評価:評価:5
とにかく恐ろしく巨大な正力松太郎の生涯を余す所無く描いた本です。
つきることない欲望とそれを実現していくバイタリティ、人を人とも思わない冷酷さ、などなど、読売の繁栄をつくりあげた男の全体像が克明に伝わってきます。また、メディアの興亡(攻防?)史の面もあり、読売だけでなく、毎日、朝日も結構えげつないことをしてきたことも知ることができました(関東大震災で東京の新聞社が壊滅状態になったのをいいことに、朝日、毎日は関西から販路拡張を仕掛けてきた)。
思いつくままに、この本から得られた情報をあげると、

○ 2004年にイチローが破るまで大リーグの年間最多安打記録を持っていた往年の名選手シスラーの息子は、終戦直後日本にいて、日本の野球復興にかかわった。
○ 川上時代のジャイアンツは優勝するたびに読売本社内を隈なく優勝旗をもって練り歩かされ、その時、監督選手を冷ややかな目で見ていたのは、誰あろう、あのナベツネであった。

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  「庶民」から「大衆」への変貌とは?(評価:評価:5
「プロ野球の父」「原子力の父」など数々の偉業を成し遂げたといわれた正力松太郎の生涯を凄まじいまでの取材力と観察力を駆使して綴られた、著者渾身の超傑作。この下巻では、公職追放から復権し、日本テレビ、プロレス、原子力発電所などのパイオニアとして名声を高め、史上唯一の天覧試合を成功させ、その死後までが描かれている。

正力氏の偉業に対する評価は、この本を読んだ人それぞれが判断してくれればいいと思う。あとがきでの著者の言葉「庶民というものが、いかにして大衆というものに変貌したのか」には、ここまでこの長いルポを読み進めてきた読者には衝撃的でさえある。昭和という時代によって、庶民が大衆に劣化していくその様を、正力氏の影を追いながらわれわれは見せ付けられてきたのだから。

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