日本人を呪縛する最高法規「空気」に科学的・論理的光を当てる良作(評価: )
他の山本七平氏の著作同様、読んでいて日本人の一員である自分自身を覆う壁を一枚一枚、冷撤な論理によって剥がされつつ、反論の余地なくその正体を暴かれていくような複雑な気持ちになった。
日本人論の大家と言われる氏の著作からは、常に何らかの貴重な知恵を与えられる。
読んで得こそあれ損はないだろう。
特に日本の各界のトップや経営者、中間管理職にとって自分自身の思考・行動を決定さす正体不明の呪縛(正体がわからない規範だからこそ、まさに「空気」支配は「呪縛」と言いうるであろう)、その妖怪の存在とその輪郭を把握さえできれば、将来の危機的状況から自分自身の所属する集団を救うことができるかもしれない。
また、日本の企業・学校その他の組織に加わる外国人の方々にとっても、日本で暮らし、働く上で思いがけない災厄を避けるため非常に有益な示唆を与えてくれるだろう。
日本では、一旦「空気」という言葉が意思決定の根拠に使われれば、たとえそれがいかに合理的根拠に欠けたものであると感じても、それに唯唯諾諾と従わなければ著者のいうように「抗空気罪」という不文律の極刑に処され、下手をすれば組織の中で抹殺・軽くて村八分にされる危険があるという事実を、よくも悪くも知っておいて損はない。日本企業による外国人の入社研修プログラムなどにそのことを組み込むべき様に思える。
そうでなければその従業員が可哀そうだ。
逆に、日本で幼年期〜青年期を暮らした日本人にとっても欧米等の企業・組織に加わる前に読んでおいても損はないと思う。
なぜなら、今まで日本の風土の中で断片的に叩きこまれ、その規範に束縛されていることすら意識できない程に身に染まっている「空気」支配の価値観を外国に持ち込めば、「簡単に“ムード”(空気)に流される使えない奴」というスティグマを押されて場合によっては職を失うか思いがけない冷遇を受けるかもしれない。
それを回避するための多くの示唆を本書が与えてくれると思われるからだ。
本書は、日本人独特の「空気支配」(ただ、多くの日本人はそれがあたかも「人類普遍の原理」のように錯覚しているように思える)というタブーに初めて科学的・論理的分析の光を当てた傑作であると思う。
著者はその支配からの具体的な脱却方法までは示してくれず(示唆はあたえてくれている)、じゃあ日々の現場で対応している小生含めた庶民がどのようすればよいのか、というう課題は残る。しかし、脱却の前に呪縛の正体を自覚ことがまずは先決であろう。
本書が発表されたのが戦後30年、そして更にそこから30年を経た今、氏が指摘する空気支配は弱まったのか、強まったのか?KYなどという言葉に代表されるように寧ろ強まっているのではないか。
「空気支配」発動の要件の一つとして著者が上げる“物体への臨在的把握”等がなくても、空気支配は簡単な善玉・悪玉よりわけの論法だけで日本人から相対的思考を奪い、絶対的空気支配を発動させ得るようになっているように思える(著者が30年前に底が浅いだけに危険性が低いと語った人為的醸成による空気でも、容易に強固な空気支配が完成しうるように思える)。
小生は、必ずしも日本人の特徴の全てを自虐的に否定する必要はなく、誇れる部分はどんどん世界に誇るべきであると思う。
ただ、この空気支配は日本人の弱点の一つとして、脱却・克服されるべきように思う。
簡単に達成できることではないであろう。
しかし将来いつの日か、日本人が「空気」に警戒の姿勢を見せる風習を身に着け、本書を見て「何で山本氏は空気の危険性なんてあたり前のことを、こんなに全力投球で一生懸命語っているんだろう」と言えるようになる日が来ることを望む。
何よりそのことは、故山本七平氏が一番望んでいるのではいだろうか。
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