映画「ミュンヘン」への異議申し立て(?)(評価: )
映画の公開に併せて刊行されたとおぼしき本書、映画の印象が薄れないうちに急いで読みました。
私は映画を見て、その原作とされる「標的は11人」も読んでいますが、同じ史実について述べているはずの本書は、おそろしく映画・原作と異なっています。たとえば、映画・原作ではイスラエル政府からもモサドからも離れ独立した5人の暗殺チームが、まず最初に11人の暗殺対象リストを渡されます。そして政府やモサドの支援を受けずに暗殺を遂行してゆく。ところが本書では、11人のリストなんて存在せず、黒い九月と関係したとおぼしき人物をじっくり時間をかけてリストアップし、一人一人殺してゆく。単独チームなんかではなく、モサドの正規工作員が何十人もかかって作戦を行う。暗殺現場近くに設営した移動本部では幕僚が報告を待っていたという。全然違うじゃん!
本書の著者はイスラエル国防軍の情報局長も務めるというジャーナリストです。おそらく、本書の主たる情報ソースはイスラエル政府筋でしょう。映画・原作の情報源がモサドに反逆した元職員・暗殺実行犯だったのとは対照的です。本書はイスラエル政府がこの暗殺作戦をどう総括しているかを、ジャーナリスト個人の名前ではありますが、準公式な歴史としてまとめたものと言えましょう。
私は、本書が真実だとはけっして思いません。しかし、映画・原作が真実だとはとうてい言えないことも、よくわかった。イスラエル国民の深い孤立感・寂寥感は本書によく描かれていた。とくに、五輪で殺された人質遺族のその後の記述はすごかった。30年も孤独な戦いを続けたのだそうです、遺族たちは。
スピルバーグが投げてよこしたボールをしっかり受け止めようと思って読んでみたのですが、十分期待に応えてくれたと思います。
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