魂の文学史(評価: )
「文学史」と呼ばれるものはいつもくだらないものだ。小説や詩の、いちいちの作品の細部に立ち入って読む面白さを知っているものにとってはなおさらにくだらない。時代ごとの有名な文学者の特徴について、こまぎれの引用を申し訳程度につけてそのうわずみをさらうだけの作業というのは、実は何の意味もない。これは、権威主義的なアカデミズムが学生に強いる偽の教養のためのものであり、もっと個人的な、つまりは最も誠実な理由において本を読むことをする人々に必要なものではない。文学史など知らなくてよいのだ。いや、自ら自分のための文学史を、一人一人が作っていかなくてはならない、我々はそういう時代を生きている。渡辺博士の文学史がそのような既製品と一線を画すのは、「文法学者も戦争を塊避できる」という、彼の信念によってである。これは前世紀に幻想された「客観的な」文学史ではない。本書の中で彼が語る、狂熱と狂熱とのいたちごっこ。人間がいかにして憎しみ殺しあうかに関する明解で深遠な叡智を、フランスの歴史を通じて語り、そしてその時代に生きた小説家や詩人たちの中に見出される「ユマニスム」について語る本書は、人文学の専門家が真にあるべき姿を体現している。フランスの文学なんて知らないから、と敬遠する必要はない。この本から知ることをはじめてみてもよいのだから。むしろその道順をこそ進めるべきかもしれないとすら、僕は思う。
この評価・レビューへの支持:投票総数 14件中 10票の支持
|